色…だったのだろう
池袋の雑踏でその紙片をひろってしまったわけは
淡いカスタードイエローとスカイブルーに塗り分けられて、正方形をしていた厚めの紙
なぜか雑踏の通路にあって踏まれることもなく、きれいなままだった
ぼくは身をかがめてその紙片を拾い上げた
文字が書かれていた
「科学博物館のミイラの前…голод」と書かれていた
голод…飢えのことだけれど、それだけでは意味はわからなかった.ともかく行ってみればなにかがわかるのかもしれない
誰が落としたのか、何のために書かれたのかわからない紙片だったけれど、ぼくは行ってみることにした.おととい修理から戻ってきた父の時計を見た.火曜の午前9時すこし前、ほどなく科学博物館は開くだろう
ぼくは山手線のホームに歩いた.上がったホームの人々は多くなかった.言葉をかわすこともない見知らぬひとたち…これから何かをしようとしているのには違いなく、その思いを「個」のなかに包んで、だからどこか皆、思いつめたような表情をしている
不意に、ぼくのなかで崩れてゆくものがある.駅の上の空は晴れて、青は淡かった.季節の移りゆきは劫苦に似ているのかもしれない
上野東京方面の電車が来た.車内も明るい光に満ちていた
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テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学
- 2008/04/01(火) 06:37:47|
- ダークファンタジー
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