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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

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水のあやなみ Ⅱの43

感覚が、むしろ身体そのものだった。質量も、呼吸する空気の肺にみちてゆく感覚。触れあう手のあたたかさとつめたさも



「不思議…感覚がどこまでも深くなってゆく気がするわ」

「この室内の造作も、うすくあおく濁って感じられる空気も、すべてがあまりにもなまなましい」

「そう、すこし生々しすぎるわ。感覚がどこまでも、細胞のひとつひとつにまで降りて行ける気がする」

わたしは、女性の顔をひきよせて、その唇に唇を触れた

くすくすと笑いながら、女性はわたしの髪をつかみ、顔を遠ざけようとする

「やめて…神様が見ている」



「すこし眠らせて…」

と女性は言った「あそこに乾いたベッドがあるから」



その、乾いた、という言葉に自分の何かが反応していた。意識の、あるいは意識ですらないものの奥深さで

なにかに自分は見つめられている。一種の無言の問いかけとして



女性は、棚から生成の、すこしごわごわしたパジャマをひきだし、素肌にそれを着た

「眠い…しばらくそっと眠らせて」

自分はそれほど眠くなかった

ベッドのサイドテーブルに一冊の本が置かれていた。赤い皮の表紙。題は薄れていて読めない。ベッドのそばに置かれた椅子に腰を下ろし、その赤い本を膝の上に置く



女性は、薄い翡翠色の布団にもぐりこみ、顔と右手だけを出してこちらを見ている

髪が枕に流れて、暗い虹のように光っている



「手を…」と女性はちいさくつぶやくように言って、こちらに右手を伸ばしてきた

自分は黙って頷き、その手を左手で握った

女性は目を閉じた
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テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

  1. 2013/02/26(火) 04:22:01|
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水のあやなみ Ⅱの42

あるいはまがいものの身体であったとしても、この世界で与えられている身体には感覚が精緻に備えられていた。それがもたらす域は、思考の器として機能している
純度という言葉が、意味をなさないような、感覚と言葉の隙間無い思考。乖離などどこにもなく、ここでは他者であることが自己を支えていた。そのようにして支えられる他はないふたりであるということ

これが煉獄というなら、この奇妙な清潔さこそが「死」に似てもいた
けれども、それは同時に永遠の生でもある。解き放たれることなく、続けられる感覚と思惟
不意に、烈しい悲しみが来た
その女性との、過去、ということばがすでに意味をなさない過去の世界の記憶
それは祝福だったのだろう

女性の手が、わたしの手をつつむように握っている

テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

  1. 2012/09/19(水) 02:41:51|
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水のあやなみ Ⅱの41

そして、一匹の犬が森の間の小径を歩いている。黒いつややかな毛に身を包む細身の、しかし巨きな犬だった。その犬はやがて、誰一人いない地下道を微かに爪の音をたてて歩いてゆくのだった。歩く闇…という印象も、そして漆黒の狼ようにも見え、それは同時に烈しい意志で死より甦った神のようにも思えた。死の極みがそのままに生であるかのような、あるいは純粋な生の衝動の具現、あるいは集合記憶としての幾万もの死、そして冬の枯れ野の朽ちてゆく草、あるいは滅びた都市の記憶のようにも思えた。そのすべてを水の影のように湛えて、おおきな黒い犬はあるいてゆく

神の犬、という言葉がある

…それはいつもあなたの後を追って歩く。離れることはない。全くの沈黙と共に、双眸を静かに開いてあなたを見つめながら。あなたはけれども、その視線を逃れることはできないその黒い神の犬

それはいま、ふたりのところに歩いてゆくのだった


「どこかまだ静謐なままゆきさきの見えない罰を受けている気がするよ」
「罰…罰だとしたら罪はどこにあったのかしら」


まして、神の記憶にとりこまれながら、いつまでも自己展開を続けるほかはないぼくたちは…

タオルは乾いていた
その乾いた感触のなかに残るかすかな水の気配


「わたしたちが光を求めたとき、わたしたちは光に…つまり自分自身に閉ざされたのだわ.でもあなたはわたしではなかった.わたしを苦しめ、わたしに侵入した」
「ほかに…どうすればよかったのだろう」
「宿命だったのかしら」
「宿命などはないさ…」
と、ぼくは言った

  1. 2010/12/11(土) 08:19:30|
  2. ダークファンタジー
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水のあやなみ Ⅱの40



崩壊する精霊たちが雨となって降るような、その都市の朝、その雨は水晶の球に似て、けれども靄めくこともなく大気は澄み、すこし冷えていた。人の姿のない通りの遠くまでも見通せるその雨の中を赤い傘をさし少女は歩いている。低く傘を広げていたから、少女の顔はその下半分しか見えなかった。その風景のかすかな違和をそこにいる記述者のひとりが感じたとすれば、瞬間がいつも先にいってしまうという遅れ、もしくは取り残されが、この世界にはない、ということだろう。この世界はいつも記述者の認識の遅れを待っていてくれるかのようだった。そのような世界のなかを赤い傘の少女はあるいてゆく。放心をうかがわせるような…あるいは憤怒とともに。

その表情の硬質は、どこか人形めいてもいて、けれども生々しさがそこに感じられるのは、いくつもの表情が重なるように翳りのようなものとなって見いだされるからでもあるだろう。あるいは予兆としての認識を、その少女が持っている、ということかもしれなかった。予言者のように。すべては未成のまま可能性として示されるのみで、その不安のなかに吊られているような

雨は続いていたが、空は明るく、雲は薄くなっていた。路樹の緑は濃く、都市には珍しい樅だった。舗道には灰色の石が敷き詰められている。かすかに緑を帯び、摩耗が進んでいた。雨はその軽石のような表面に吸われて、少女の足音も密かなものにしていた。バスが一台過ぎてゆく。灰色の影のような人たちを乗せて。歩く人たちも皆、傘をさしつつうつむいて歩いてゆく。淡く隈のような疲労を、その青ざめた顔の色にのせて。あるいは、どのひともみな、何かを求め、それがかなわぬままになっているのかもしれなかった。苦痛と不安のなかに置かれて、そこからぬけだすこともかなわずに。もし、煉獄という場所があるとすればそれは、このような場所でもあっただろう。そのとき一瞬、少女の表情がやわらかくほころび、少女は微笑んでいた。その視線のさきには、舗道のガードレールにとまる1羽の鴉が、そのつややかな黒のすがたを丸くするようにして、なにかを凝視しているのだった。
  1. 2010/11/14(日) 09:43:46|
  2. ダークファンタジー
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水のあやなみ Ⅱの39

「存在は、たとえ自らが、その投射もしくは模像として生み出したものだとしても、そこに認識がある限り…そして、自己認識は結局言述に回収されるとしても、常に言述を裏切り、それを超えてゆく感覚をもつかぎり、それは他者であるという存在の要件を満たしている。夢に出てくる人なるものはすべて他者に他ならない…と言ったのはあなただったわ」
「完璧に覚えているね」
「ええ…わたしたちそのものが、多分、神の完璧な記憶そのものだから」
すこし背をまるくするようにして、湯船に女性は腰をおろしたまま続けた
「わたしたちは神の記憶に取り込まれてしまったのだわ。この見えない檻のような世界に」
「そして、それを流れ出てゆくものだろうね…思うのだけれど」
「なに?」
「思っているのは…ふたつ。ひとつはこの状態のぼくたちにもセックスはできるかな…ということ」
「…ばか」
女性はすこし笑った。そして軽く頬をたたくふりをした
「もうひとつは…」
わたしは続けた
「ぼくたちは、神のあやつりを結局は逃れられない人形だったのではないかということ」
「どうかしら…」
女性はすこしうつむき、バスタブのふちを掴むようにした。その細い腕に、どこか負の陰翳のように鳥肌がうすくたつのを見た

「もう1年以上もこうしていた気がするわ」
「ぼくたちの作者が迷っていたのさ」
「ひどい作者ね」
「記述に記述をとりこむこと。それが決定されてゆくことはいつも奇妙な齟齬をともなう。遅れるものでありながら、それは決定された未来から現在に立ち戻ろうとし回帰しようとする、結局は仮想でしかない時間というものの不快。作者は結局、時間など存在しない、あるいは虚数領域にあって、それを実体としては記述できない、と考え始めたからかもしれないよ」
「単に怠けていただけだわ」
「そうかな」
と、わたしは笑いながら、女性の背の水滴をタオルでおさえるように拭いてゆく
「上がって」
とわたしは言った
バスタブの水が揺れ、窓からの陽光がその表面に散乱した
「でも、なぜわたしとあなただったのかしら」





「なぜなら、みずからに閉ざしたものは縮んで、やがて消えてゆく他はないから。語ろうとするもの、自身がそこにいると告げるものは閉じない」
「そうだとしても、なぜ、わたしとあなたなの?」
その南西と北東に開けた窓を持つ室内…二人には広すぎる場所ですらある部屋は、都市の中空に吊られているようだった
そしてその2方向からの陽光が異様なものであることに気づいた
「いまは何時なのかな…」
「いつかしら…」
女性は、すこし目を細くして窓際に置かれた釣り鐘に似た硝子器の中にある時計を見つめた
午後2時には、まだすこしある
「出ましょう」と女性は言い、立ち上がって湯船のそとに足をつけ、湯船の端に腰をおろした

髪の先が濡れて、肌に張り付いている。ふと…車を借りよう、と思った。この精緻きわまりない世界を好きになり始めている。その創造者は、非在というひとつの死の様態にあるとしても、それによって生み出されたこの世界はやはり「いのち」に満ちているのではないか
「拭いて」
と女性がいった





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  1. 2010/11/13(土) 04:36:25|
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