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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

テュービンゲンに重なるもうひとつの翳

ツェラン ハイデガーに重ねて
カント・フィヒテ・シェリング・ヘーゲルを

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テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/26(土) 14:21:03|
  2. ダークファンタジー
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イェスペルセン デンマークの人♪

岩波文庫に3冊入っていますよね♪
英文法の文法学者なので用例がわかりやすいはず

「メタ」を考える上で読んでおかなければならないから

で「ロゴス」には本来定冠詞theが付くべきなのかな とも思うのでした(特異的唯一であるという意味で)

あと、ヴェイユとシェストフとフロレンスキイが結びつき始めました プラトンを介して


ううう ジャンクフードが食べたいよぉ
何故か日の暮れる頃までは東京にいるのです

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/26(土) 12:10:45|
  2. 交感神経日記
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雨と虹と雲そして人形 その4話の9

青空のなかを、雲が流れてゆく.まるいちぎれ雲が、嵐の日のような速さで
いつか昔に、子供のころに、このような雲を見たことがあったのかもしれない
日付はとうに失われてしまった記憶のひとつとして、雲の記憶.雲が雲であること.雲に違いなく、でも同じ雲ではないこと.ひとつとして同じものはないことは同時に…次のことを意味しないだろうか.量子すら…それぞれが違う響きをもつ…風に鳴る弦のように.ならば、ぼくたちは唯一の中につつまれてそれとわかちがたく刻まれる…その喪われることのない記憶として
風に、塩と砂が混じっていた
風は、時に揺らぐようにその強さをまして不意に、雨滴が混じった.痩身の青年がすこし驚いたように顔をあげて海のほうを見て、言った
「虹だ」
そう、それは虹だった.細かな雨がいますこしそのはげしさをましている.虹がその色を、分光をくきやかにして、そのともなう暗い弧…アレキサンダー帯の暗さもまた鮮明だった
暗さ.なつかしく甘やかでさえある暗さ
「あれじゃなくて?」
と女性がいった「あなたのもとめていた暗い青は」
「暗い青じゃなくて、深く透明な青…なんだ」とぼくは言った
「同じじゃない?」
「すこしでも違うものは、ひとつの言葉ではあらわせない…」とぼくは言った

「なにひとつとして、ほんとうに言葉であらわせるものはないんだよ」虹の方向に視線をむけたまま痩身の青年がいった
「空の深い青を…玄あるいは蒼であらわすのだけれど、たしかにそれは透明で、どこまでも続く空間性によって、永遠と、それにともなう喪われでもある」

ぼくの膝にもたれて眠っていた少年が目をさました.そして「虹?どこ?」といった
「ほら…」
ぼくがゆびさすと、少年はすこし目を細くして遠くをみた
「ほんとだ…でも、もう消えてゆくね」

そうだった.空の虹はもう、どこにも見えなかった.雲すら流れ去って、空は青を明るくした
「行こうか」
膝の砂をはらいながら青年が立ちあがった「それほど遠くないところに駅がある.ぼくの生きていたころは海辺の駅だったけれど、その海水浴場は埋めたてられて工業地帯にかわってしまった.でも砂の道が続いているよ」

ぼくたちは歩きはじめた.初夏…それでも風は涼しくて、砂の道は乾いていた.両側には濃い緑の畑が広がっている
道の先には、逃げ水が光っている.陽炎に揺れる風景のむこうに駅舎と小さなホームが見えた
周囲には、その駅舎以外建物はない
ひどく古いバスが赤く錆びて朽ち、すこし斜めに傾いている

ホームは清潔で、でも昭和43年の新聞と雑誌が放置されていた

「ここ、ほんとうに電車が来るのかしらね」
と女性が言った
時刻表をみていた少年が言った
「あと二時間まてば来るよ」
そして少年は、ベンチに置かれていた雑誌を読み始めた

「でも、その電車はどこにゆくのかしら」
「たぶん…」
…たぶん
ほとんど同時に痩身の青年とぼくは言った
「ぼくたちの見知らぬどこかに」
…ぼくたちの見知らぬどこかに

それは憂鬱な想像で、同時に現実感覚をあざやかにともなってもいた.どこにもぼくたちの場所はないのだ…という感覚とともに.でもぼくたちはいまここにいる

少年が雑誌の頁をめくるその紙の音を、ぼくは聞いていた.めまいのなかの風景の片隅のどこかに、カーテンを閉ざした部屋がある.壁際のたなの上に4つの人形があって、女性がその人形たちの演じる物語を書いている.物語のために、ランダムにめくられるカードがある.パステルカラーのカードには、ロシア語の…正確にはウクライナ語の単語が書かれている.いま1枚のカードがめくられようとしていた

ぼくは駅舎のすずやかな影の中の壁に、あのカードがピンでとめられているのを見た
あゆみより、裏返してそれをみた

самолет и смерти

遠く爆音が聞こえた.小型飛行機のエンジンのおと.
外にでてみると、空に青黒い点のようなものが見え、それはこちらに迫ってくるようだった.初夏の午後、その青空の下にぼくは立ち尽くしている





テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/25(金) 06:06:53|
  2. ダークファンタジー
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匂い あるいはアンドロイドがあれほどまでに官能的なのは

ひとつにはフェティシズムのためなのはもちろんですが、身体への無条件の…思考抜きの=本当の意味での感覚*認識結合抜きの依拠の、盲目的混濁がないため
あと、要考察なのは、人形愛の要素がどのように浸潤して含まれているか…ということ

アンドロイドの匂いのなさは、その匂いの無さのままに素敵なのだろうか?

匂い その2

緑のままに朽ちてゆく草の空き地埋もれた鉄錆びてゆく黒
濡れてゆく土がこの下にあるから、白い肌には匂いなどなく
枯花の花束に赤銀めくとき埋める顔のくちびるに紅
肌に触れ毛布につつまれて眠り深くも水の匂いの真夜(まよw)になるまで
背中たちの獣のようにまるくあゆみ真昼に道の花の静けさ
苺と苺の触れつつ腐り滴らせて澄む果漿凍るきみの内闇(うつやみw)
ぼくたちの肉は光に蝕まれていま青空の真下には薔薇
柳・砂・川面の光崩れ、散り匂う黒髪のきみの獣は
疾駆するちいさく白い花の群の匂いのなかに老いてゆくぼく
青銅の裸体の胸に触れてゆく舌なまめくも血の匂い・味
むせるように口にあふれる川の水の栗匂ういまは初夏(はつなつw)

定型崩しは、発語のベクトルと韻律速度のコントロールを意図して行うのですが読点の使用もそのため
…って今回はあまり使っていませんか

あと、4首めの「果漿」孤立させつつ連結詞としても使うという意図です…みたいなことをしているので、言葉でオブジェを作っていると言われてもしかたないです
なお読みを(~w)と入れていますが、頻見する読み方なので、ちょっと悪意もこめてのw=笑




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  1. 2008/04/24(木) 03:25:27|
  2. 交感神経日記
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ふーん♪

こんなのみつけた
http://en.wikipedia.org/wiki/Bayesian_probability

エピステモロジーに重要な知見が含まれているのは、複数の展開群を、未完あるいは不全のままに歴史化している科学という思惟を扱うためなのかも
それは、みずから満ちたり得ないことを自覚している…あるいは求めない思惟でもあるからなのかもしれない

テーマ:短歌 - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/24(木) 03:03:29|
  2. 交感神経日記
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いまの時代にクリスティアン・ヴォルフを

読もうとする人は少ないけれどシュライエルマハーとの関連で一応目を通しておかないと…なのでした
もちろんカントの俯瞰的理解のためには不可避だそうですから、必要のある方は必読だそうです
(某、英文サイトによる)

でも、ラッセルの「公準」とヴォルフのならべてみるとちょっと面白いです。連結子に意味をみいだす…という意味でも♪

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  1. 2008/04/22(火) 17:08:31|
  2. 交感神経日記
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雨と虹と雲そして人形 その4話の7

海…といっても高速道路を走り、長く奇妙な橋をわたった、都市に近い海だった.松林のなかのレストランでピクニックバスケットにサンドイッチや飲み物にフルーツを用意してもらい、それを手にぼくたちは海に向かった
タクシーを降り、海にむかってあるくぼくたちに、タクシーの運転手はいつまでもその白い手袋をした手を振っていた

砂浜は海に向かい背後には松林が低くひろがり、さらに背後の高層ビル群は靄の中に明るく霞んでいる。風はほとんど一定の強さで吹き続けている

遠く対岸が見える
「ビュージェット湾は、ちょうどこんな眺めかな」と痩身の青年がいった「晴れて風の強い日は意外に近くに見えるよ…いままでいた街でさえ蜃気楼のなかにあるようにみえる」
「蜃気楼のなかにいた、というのはよいわね」と女性はいった
「ぼくは陽炎のなかに立っていたことがある…」と、少年は言った「ビルとビルのあいだの道にひとはいなくてその春、舗道で溶けていた氷の大きな四角い塊は透明で、太陽の光にきらめいていた.ぼくは陽炎のなかで、陽炎と一緒になってゆれていた.なぜかなにかがひりひりとしてまぶしかったから、ぼくはその氷をなめた.舌の先で触れると、つめたくて水の味がした.その水の味のあたりまえなことにおどろいてしまった」

砂浜にはそれでも、ゆるやかな起伏があり、砂は乾き尽くしていたがところどころに青草もあった.ぼくたちはそこに腰をおろして遅い昼食をはじめた.ちぎれた雲が流れてゆく.手のとどきそうなところを.空の青は濃く、かすかに緑色をおびてもいる.風景のすべては失われのなかにある.その感覚は苦痛で、でもそれをいうなら生の感覚そのものが苦痛だった
サンドイッチは乾かないようにパラフィン紙でつつまれていた.ハムの塩の味に、ぼくはすこし驚いてもいる.オレンジジュースはまだ冷たくて、瓶は水滴を帯びていた

少年の手からサンドイッチが離れて、布のマットにゆっくり落ちた.少年のあたまがぼくの膝にいきおいよく傾き、おもわずささえると、かすかなうめきににた吐息とともに、少年は眠りに落ちていた.そのやわらかな髪からは、幼い獣の匂いがした





(4話の8に続きます)

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  1. 2008/04/21(月) 17:08:40|
  2. ダークファンタジー
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雨と雲と虹そして人形 その4話の7

その女性がタクシーの窓をたたいていた
すこし怒った表情で
「あけますか」とタクシーの運転手がいった
「…ええ」とぼくは答えた
ドアはひらき、女性と、三日月にいた、あの痩身の青年が乗り込んできた
そして前のドアを自分でひらき、少年がタクシーに乗ってぼくたちのほうを見て頬笑んだ
「海にゆくの?」
「そうよ」と女性が言った「砂浜でピクニックをするの」
「わあ…」
少年は笑顔になった「ピクニックなんてしたことないや」
痩身の青年は苦笑してぼくのほうを見つめた

女性がぼくを見て言った
「あなただけが、引き裂かれていると思っているの?引き裂かれているのは、あなただけじゃないわ。現在って時間の裂け目なの。過去は存在し、過去の投射としての未来はある。でも、現在なんてどこにもない。見て」
女性はぼくの正面に顔を向けた
「わたしの瞳をみて」

そこにあった。瞳の奥に、あの深い青が。闇であり空でもある、あのほとんど黒でもある澄んだ深い青が

「現在が引き裂くのは時の流ればかりじゃない。わたしたちの言葉も、現在によって引き裂かれるの。発語されたときに言葉はもう、同義性に収斂されることはない」
「それはつまり…」
痩身の青年は
「ぼくたちはもうどこにも帰る場所なんて無い…ということだね」
「でも…」と少年は言った
「すべてが見知らぬ場所なのかもしれないよ」
「それが日常の廃墟でもかなあ…」とぼくは言った
「うん」少年は笑顔になった「廃墟って素敵じゃない」

女性が笑っていた「なんだか昔のあなたを見るようだわ」

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  1. 2008/04/18(金) 18:34:55|
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雨と雲と虹そして人形 その4話の6

ぼくにかけられた呪いとは何だったのだろう

死を失った生は、生ですらない別の何かに変わってゆく.不死という呪いの、安息無き回廊を歩み続けること.そして不眠

若い女性は立ちあがり、ぼくの傍らに腰をおろした
「あなたの呪いは、あなたが解くしかない.それはあなたのかけた呪いだから」
「どうすれば…」
「いまこそ恩寵が必要なのかもしれないのに.でも、あなたは赦されることを拒んだ…」
「赦されること…それはいまも望んではいない.それくらいなら苦痛を選ぶ」
「ええ…そういうところは嫌いではなかったけれど、でもたぶん間違っている」
女性はぼくの手首を包むように抑え、指でぼくの脈をはかるようだった
「いま、あなたは生きている…そのことは不幸?」
そう女性は尋ねた

そう、そのことは幸福でも不幸でもない.でも、言葉は言葉のままにふたつに裂けてゆき、風景は重なり合って失われ…同時に現前でもあった.それは苦痛だった.ぼくはいま…時間…に引き裂かれてゆく

「ぼくは時間に引き裂かれているよ…感覚と、そして思惟に」
「あなたは、あなたが言ったことを忘れているのかしら」
「…ぼくはきみに何を言っただろう」
「ぼくたちは死ぬときは一緒だって」
「そういえば…」
「忘れているの?あなたはわたしを殺すことができるのよ…あなたの意思ひとつで」

ぼくは思わず笑った
「聡明なきみが、いまもまだ気づいていなかったとは」
「何をいっているの?」
「もういい…」
ぼくは立ちあがった.呪いは呪いのままでよいし、救いも安息もないのだろう.でも、もし神がいるのなら、このぼくをこそ救え

少年が音も無く立ちあがって、ぼくに最後のカードを手渡した.そして同じカードを若い女性にも手渡した

ぼくは、そのカードを見ることなく、ポケットにしまい店を出た.влюбленность падуба と書かれているのだろうか
外は驟雨だった.どこか明るい夏の雨が、ぼくのシャツを濡らしてゆく.ぼくは鞄から2通の手紙をとりだし、ポストに入れた.そしてタクシーを呼びとめ、海に向かおうとした


テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/18(金) 02:46:35|
  2. 未分類
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スタートレックの

ミスタースポックではないけれど「論理に従おう」としてしまうことにはやや偏狭とも言える部分も含まれていて、その偏狭を排除する方向のひとつが、その論理に従おうとすることが自己肯定を含んでいないか注意深くなることです

と、いうことで、ひととの会食を除いて肉食をほぼ捨ててから6ヶ月.体重がマイナス5kg
このまま減ってゆくのはちょっとまずい気もしますが、それでも体調に問題無し
は、いいとして

あと、論理に従うことのひとつなのですが、親をひとりの敵として感じてしまった場合、その敵はその無力ゆえに見捨てることはできなくなります.そこの論理は幸か不幸かキリストに淵源しているために「ならう」ことを選んだ場合、離脱できない論理の基礎規定になってしまうのです

その、逃れられなさについて、道をとことこ歩きながら考えてもいるのですが「ならう」ということは「赦されない」側に身を置くことでもあるのでした.キリストを裏切ることはできないのです

と、いうことで、すこし衰弱中

いまの夢は、6時間続けて眠ること

海の音の聞こえるところなら、いうことはありません

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  1. 2008/04/17(木) 19:45:55|
  2. 交感神経日記
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淡い翠の木下で読書

…というのが素敵な季節になってきました♪

手元にある本は…
鷲巣繁雄さんの遺稿集「神聖空間」
辻邦生さんの「回廊にて」
(ヴェイユとの関連で再読中)
吉川幸次郎さんの「人間詩話
ブランショの「書物の不在」

それにしても(と、話はかわりますが)プロセス哲学や数理哲学の人たちが前の大戦中ずいぶんレジスタンスに参加して死んでいます
それには論理と行動の一致、という純粋論理の徹底…ということもあるのでしょう

正面から受け止めて、正攻法で戦う、っていうの好きです
正攻法で戦うためには、知の物量戦にもなると思うのです
その意味で、濫読も大切

テーマ:物書きのひとりごと - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/17(木) 10:18:36|
  2. 交感神経日記
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雨と雲と虹そして人形 その4話の5

その少年の視線は、若い女性にも向けられた

少年は首をかしげ、すこし不思議そうに微笑むと、アイスクリームの上から、スプーンで赤いチェリーをすくって口に含み、そして本の頁に目をおとした
その本は灰色の表紙の夭折した詩人の詩集だった

そう、あの青は、ここではないどこかにある世界の青だった.この世界の雑駁と混沌をのがれて
その世界の深い青はひそやかにやさしく、そして寂しかった
それは神の淋しさで、そのさびしさが神をうごかしているのかもしれない
でも、ぼくたちはこのからだを持ち、その感覚はいのちの感覚でもあった.ぼくの前に、静かに膳が置かれた.箸…そして小さな銀のスプーン
そのものは味のない乳白色の寒天.餡の甘さ.その甘さを感覚しているぼくの視覚のとらえているもの漆のつややかな暗色に塗られたテーブル
その飴色が水面のように映しているさまざまな風景と光

ぼくは、開かれた店の入り口から通りの向こうを見る.広い通りを車が行き交い、向こう側にもあるくひとたちがいる.陽炎のたつような明るさも、どこか淋しかった.それは初夏の淋しさでもある
過ごしてきた初夏の日々は互いに重なり、ひとつになってゆこうとする.そして遠い高原
その風景の記憶はいまも鮮やかだった
「アイスクリームが溶けるわよ」
若い女性が静かにいった.その声には遠い記憶があった
ぼくに呼びかけるその声の聞こえるとき、ぼくはぼくであることができた
声…そして言葉
たぶん…そしてだから、ぼくに呼びかけるとき、その女性もその女性であるのだろう.声でも、視線でもよいのかもしれない.無数の感覚が響きあい、この世界はこの世界にたちあがってゆくとしたら、この世界はいのちの世界でもあった…でも



カードが机の上に置かれていることに気づいた

жизнь Бессмертность 

いのち…そして不滅


明るいグレーの背広を着た痩身の青年がぼくを遠く眺めるようにして、言った

「たぶん、存在はこのような失われのなかにあって、その失われが唯一の永遠だとすれば、その失われ…喪失の中にこそ存在は滅びない.喪失からたちあがり、絶え間無く展開してゆくこともまた、受け継がれてゆくこととしての命なのかもしれないのだから
昭和11年の初夏、ぼくはここにいたよ
そしてこの世界こそがいのちそのものなのだ」

少年の声がした
「ハリストス死より復活し、 死をもって死を滅し、 墓にある者に生命を賜えり」
少年はぼくに言った
「今年の復活大祭は初夏にあるのかな…」

そう…冬の寒さを残す季節ではない、その夜に鐘は鳴り響くだろう.回廊に、ぼくはもどらなければいけなかった

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/17(木) 04:37:58|
  2. ダークファンタジー
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雨と雲と虹そして人形 その4話の4

パンダ橋は人が少なかった

光がまぶしく散乱して、どこか夏の雨の中にいるようだった.でもぼくはずっと、さっき垣間見たあの深い青を視野のどこかに追っている

ぼくはいま階段を降りて、入谷方向に歩いている.道には車が流れている.本当に流れている.光を反射しながら、同時にすずやかな闇をたたえて、その真昼を

その「三日月」という店は、その車の流れる大通りに面している.騒音のなかにあるはずなのに、でもひっそりと静かで、客は3人居た.12才くらいの男の子.黒い服の若い女性.明るいグレーの背広を着た痩身の青年.みな店のなかにすこし離れて座っている

店の中は暗かった.初夏のいまだからだろうか.木の下闇…という湿度のない涼しさの闇の雰囲気だった.でも、あの青は、木の下闇の中では見えないだろう
男の子は本を読んでいる.女性はプリントアウトされた文書をチェックしている.青年は子型のスケッチブックに、先をとがらせた鉛筆で何かを描いている

座ったぼくのまえにお茶が置かれた.クリーム餡蜜と、なぜか魅力的におもえたのでぜんざいも注文していた.ななめに向かいあう位置にいる青年が顔をあげ、静かにほほえんだ

そのほほえみは、どこか懐かしげで、さびしげでもあった.そう…もし祖父が青年の姿をしている時代があったら、そうであったかのように…とぼくは思う
その思いはもちろんなんの根拠も無くて、でもあざやかにそう思えたのだ.いまが昭和の初めの頃でもあるように

いまは真昼だった.机の左上にあのカードが置かれていても、ぼくはもう驚かなかった.カードには「безмолвие」とあった.そしてПотерянность と鉛筆で書き加えられていた.静謐と迷い…なんのことだろう

そして男の子がぼくをみた.とても不思議そうに

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/11(金) 04:55:29|
  2. ダークファンタジー
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雨と虹と雲そして人形 その4話の3

そのカードの IL Y A には続けて 「上野の三日月で餡みつを食べてね」と書かれていた
文字は緑色や赤紫の虹色を帯びていたから、きっとブルーブラックインクに違いない
それにしても

…餡みつ か

ぼくは、すこし憮然としながら科学博物館の階段を降り始めた.午前の光はやわらかで、階段部の幾何学的なステンドグラスに多色化され、ふたたび溶けあってゆくあいだになぜか、深い青が現われるように感じられ、それを確かめるためにぼくは階段の中ほどに立ち止まっていた

青は閃光のように現われるのではなくて、あるいは視線を動かしたときに現われる補色、でもない青

いま、その青は見えていない.ゆっくり視線をさまよわせ、あるいは遠くして凝視から眺めに切り替えても、もうどうしてもその青は見えない

それは深く、そして澄み、闇のように暗い青だったのだ…そう、ぼくがむかし魅せられてしまったヒマラヤ産のブルーサファイヤのように.あるいは黒、と言えなくもないほどの深い青.でも黒ではなく青で、そして透明だった

ぼくは階段を降り、外に出て、足早に駅の方向に向かった

風景は明るく、そして硬質だった.舗道も建物も、樹木も人々さえ揺るがなさのなかにあって…でも、それとは別の宇宙がある.はるかに高次元のなかに透明に静謐にとりこまれて
それは星空の眺めに似ているのだろうか.遠さは、むしろ距離を失わせる.そして響きあう音のように互いに深くさしこむ光
暗黒に見えるようなものすら、みずからのうちに光を含むことが出来るという、空疎あるいは器としての豊饒としての暗さ

そう科学博物館の階段で見てしまった深い青とは、その透明で静謐な暗さ…だったのかもしれない

ぼくは雑踏のなかをいま歩いている

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/10(木) 19:32:12|
  2. ダークファンタジー
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雨と虹と雲そして人形 その4話の2

なぜか、科学博物館は子供たちが多かった
でも、子供たちの声の華やかなさざめきとは別の静けさも感じられたのは、それが平日の午前だっただろうか

科学…その歴史的に犯してきたあらゆる錯誤にもかかわらず、ひとは科学を通してしか真理にたどりつけないだろう
でも…

神は
限りなく低いしもべとして受肉し、苦痛と屈辱のうちに十字架にかかった神は…
真理ではない別の階層に…そのようにうしなわれを予定されて現われるのだとしたら

ガラスの大きなケースに、その女性のミイラは横たわっていた
麦藁色の髪.花束は乾き尽くしていた.瑠璃色の首飾り.おだやかといってよい表情.ぼくは鞄をかかえたまま、その姿に魅入られていた

生前は美しかったのだろうか.そして笑顔になったのだろうか.だれかを愛し、そして愛されたのだろうか…そしてだきしめ、だきしめられたことなども

砂に埋もれていた時間のこと.そこは季節のない場所なのだろうか
ふと
「神と砂のほかはなにもない砂漠で…」という言葉をぼくは思いだしていた

文書ケースの上に、あの淡い二色のカードが置かれていた.ぼくが歩み寄り、それを裏返してみると「Ил ь я」とかかれていた


Ил ь я ローマ字になおすと IL Y A 
わたしはここに居る という意味だろうか

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  1. 2008/04/04(金) 08:06:57|
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雨と虹と雲そして人形 その4話の1

色…だったのだろう
池袋の雑踏でその紙片をひろってしまったわけは
淡いカスタードイエローとスカイブルーに塗り分けられて、正方形をしていた厚めの紙
なぜか雑踏の通路にあって踏まれることもなく、きれいなままだった

ぼくは身をかがめてその紙片を拾い上げた
文字が書かれていた
「科学博物館のミイラの前…голод」と書かれていた

голод…飢えのことだけれど、それだけでは意味はわからなかった.ともかく行ってみればなにかがわかるのかもしれない

誰が落としたのか、何のために書かれたのかわからない紙片だったけれど、ぼくは行ってみることにした.おととい修理から戻ってきた父の時計を見た.火曜の午前9時すこし前、ほどなく科学博物館は開くだろう

ぼくは山手線のホームに歩いた.上がったホームの人々は多くなかった.言葉をかわすこともない見知らぬひとたち…これから何かをしようとしているのには違いなく、その思いを「個」のなかに包んで、だからどこか皆、思いつめたような表情をしている
不意に、ぼくのなかで崩れてゆくものがある.駅の上の空は晴れて、青は淡かった.季節の移りゆきは劫苦に似ているのかもしれない

上野東京方面の電車が来た.車内も明るい光に満ちていた

テーマ:ショートショート - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/04/01(火) 06:37:47|
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