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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

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石原吉郎さんの「海を流れる河」から引用

《…あるエッセイで「広島について、どのような発言をする意志ももたない」とのべたことにたいして。その理由をたずねられた。手みじかにいえば、私が広島の目撃者ではないというのが、その第一の理由である。人間は情報によって告発すべきでない。その現場に、はだしで立った者にしか告発は赦されないというのが、私の考え方である。
 第二の理由は、広島の告発、すなわちジェノサイド(大量殺戮)という事実の受け止め方に大きな不安があるということである。私は、広島告発の背後に、「一人や二人が死んだのではない。それも一瞬のうちに」という発想があることに、つよい反撥と危惧をもつ。一人や二人ならいいのか。時間をかけて死んだ者はかまわないというのか。戦争が私たちをすこしでも真実に近づけたのは、このような計量的発想から私たちがかろうじて抜け出したことにおいてではなかったのか。
 「一人や二人」のその一人こそ広島の原点である。年のひとめぐりを待ちかねて、燈籠を水へ流す人たちは、それぞれに一人の魂の行くえを見とどけようと願う人びとではないのか。広島告発はもはや、このような人たちの、このような姿とははっきり無縁である。
 「百人の死は悲劇だが、百万人の死は統計だ」これはイスラエルで、アイヒマンが語ったといわれることばだが、ジェノサイドはただ量の恐怖としてしか告発できない人たちへの、痛烈にして正確な回答だと私は考える
 広島告発について私が考えるもうひとつの疑念は、告発する側はついに死者ではないという事実である。被爆者不在といわれてすでに久しいが、被爆者以前にすでに、死者が不在となっている事実をどうするのか。死者に代わって告発するのだというのかもしれない。だが、「死者に代わる」という不遜をだれがゆるしたのか。死者が生者になり代わるという発想は、死者をとむらう途すら心得ぬ最大の退廃である。
 死者がもし、あの世から告発すべきものがあるとすれば、それは私たちが、いまも生きているという事実である。死者の無念は、その一事をおいてない。死者と生者を和解させるものはなにひとつないという事実を、ことさら私たちは忘れ去っているのではないか。まして私たちは、それらの人びとの死を、ただ数としてしのぐことによって生きのびたといわなければならないのである。
 そしてもし私たちが、まぎれもない生者として、死者から告発されているというのであれば、そのばあいにも私たちは、生者と呼ばれる集団として告発されているのではなく、一人の生者として告発されているのだということを思い知るべきである。しかも一人の死者によって。
 広島を「数において」告発する人びとが、広島に原爆を投下した人とまさに同罪であると断定することに、私はなんの躊躇もない。一人の死を置きさりにしたこと。いまもなお、置きさりにしつづけていること。大量殺戮のなかのひとりの死の重さを抹殺してきたこと。これが、戦後を生きのびた私たちの最大の罪である。量のなかの死ということの私たちの認識は、とおくアイヒマンのそれにおよばぬことを、痛恨をこめて思い知るべきだと私は考える。統計的発想によって告発することの不毛を、まさにアイヒマン自身が告発しているからである。私たちがいましなければならないただひとつのこと、それは大量殺戮のなかのひとりの死者を掘りおこすことである。よしんばそれによって、一人の死に、一人の死をこす重みをついに加ええぬにせよ。
 原点へ置きのこした一人の死者という発想を私に生んだのはいうまでもなく広島ではない。その発想を私にしいたのは、シベリアのラーゲリである。だがこの発想が私にあるかぎり、広島は私に結びつく。そしてそれ以外に、広島と私との接点はない。
 いまこの文章を書いている私に、帰還直後「生きていてよかった」という言葉を聞いたときの、全身の血が逆流するようなおもいが、ふいになままなましくよみがえる。「やすらかにねむってください。あやまちはくりかえしませんから」と書きしるした人が、ついに死者でなかったという事実を、さらに書きしるすべきである。
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  1. 2015/10/15(木) 11:39:58|
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