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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

水のあやなみ Ⅱの30

過去のいくつかの時への追憶が、遡行しそこから折り返すかたちでの再帰として体験できるなら、意識は乖離する
わたしはわたしではなくなるだろう…あるいは別のわたしになってゆくだろう.でも、そのわたしがわたしではないことが、そのときわたしでしかなかったことが、永遠を…そして不滅を担保するのかもしれなかった

あの森の道をぼくたちはあるいていた
手も、つながずに
あの明るい木洩れ陽のなかを
5月…しかし早春の印象が、その光の明るい希薄さにあって

それと同じものであるはずの光が、いまバスタブを満たす水にさしこんでいる

水は満ち、そして流れていた.バスタブはあかるく光を反射し、ぼくたちのからだを白くする.蒼白なまでに…血の気のない死体のように
けれども、呼吸が水を揺らす.鼓動も
何もかわらず、でもすべては変わっていた

「…沈みましょう」
と女性は言った
「…そして水の中で目をひらいて」

ぼくは肯き、ゆっくり頭をしずめてゆく、からだは浮こうとして、足のさきがバスタブの底から離れる。音が聞こえた.暗闇にひかりながら流れ落ちてゆく水の、ほそい硝子のような、その音
ぼくは目をひらいた
女性の顔がそこにあった
頬をすこしふくらませて、笑いたそうにしてぼくを見ている.水の中、あたたかな水はやわらかくて目にしみることはなかった
ぼくたちのからだは重力のくびきを逃れたように重さから解き放たれ、同時に支えを失い、互いに支えあうしかなかった
浮遊…でもそれほどは軽やかではなく、むしろ死体めいてさえいた.ぼくたちは肉であるより骨であるような…だから、互いを抱きよせるようにしたのだろう.顔が触れあうように近くなった

笑ってしまい、口からは泡がこぼれ吹きだされて、ぼくたちは水面に顔をあげた
「息、どれくらい止めていられる?」
と女性がたずねた
「2分くらいかな」
「わたしもそれくらいね…」

「川のこと、覚えている?」
と、女性は言った.濡れた前髪を額にはりつかせて
その髪を、ぼくの指先がかきわけている.女性の目がぼくをみつめていた

「夏の終わり…?」
「ええ」
と女性は微笑んでいる


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テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

  1. 2008/11/21(金) 22:28:45|
  2. ダークファンタジー
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