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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

水のあやなみ Ⅱの39

「存在は、たとえ自らが、その投射もしくは模像として生み出したものだとしても、そこに認識がある限り…そして、自己認識は結局言述に回収されるとしても、常に言述を裏切り、それを超えてゆく感覚をもつかぎり、それは他者であるという存在の要件を満たしている。夢に出てくる人なるものはすべて他者に他ならない…と言ったのはあなただったわ」
「完璧に覚えているね」
「ええ…わたしたちそのものが、多分、神の完璧な記憶そのものだから」
すこし背をまるくするようにして、湯船に女性は腰をおろしたまま続けた
「わたしたちは神の記憶に取り込まれてしまったのだわ。この見えない檻のような世界に」
「そして、それを流れ出てゆくものだろうね…思うのだけれど」
「なに?」
「思っているのは…ふたつ。ひとつはこの状態のぼくたちにもセックスはできるかな…ということ」
「…ばか」
女性はすこし笑った。そして軽く頬をたたくふりをした
「もうひとつは…」
わたしは続けた
「ぼくたちは、神のあやつりを結局は逃れられない人形だったのではないかということ」
「どうかしら…」
女性はすこしうつむき、バスタブのふちを掴むようにした。その細い腕に、どこか負の陰翳のように鳥肌がうすくたつのを見た

「もう1年以上もこうしていた気がするわ」
「ぼくたちの作者が迷っていたのさ」
「ひどい作者ね」
「記述に記述をとりこむこと。それが決定されてゆくことはいつも奇妙な齟齬をともなう。遅れるものでありながら、それは決定された未来から現在に立ち戻ろうとし回帰しようとする、結局は仮想でしかない時間というものの不快。作者は結局、時間など存在しない、あるいは虚数領域にあって、それを実体としては記述できない、と考え始めたからかもしれないよ」
「単に怠けていただけだわ」
「そうかな」
と、わたしは笑いながら、女性の背の水滴をタオルでおさえるように拭いてゆく
「上がって」
とわたしは言った
バスタブの水が揺れ、窓からの陽光がその表面に散乱した
「でも、なぜわたしとあなただったのかしら」





「なぜなら、みずからに閉ざしたものは縮んで、やがて消えてゆく他はないから。語ろうとするもの、自身がそこにいると告げるものは閉じない」
「そうだとしても、なぜ、わたしとあなたなの?」
その南西と北東に開けた窓を持つ室内…二人には広すぎる場所ですらある部屋は、都市の中空に吊られているようだった
そしてその2方向からの陽光が異様なものであることに気づいた
「いまは何時なのかな…」
「いつかしら…」
女性は、すこし目を細くして窓際に置かれた釣り鐘に似た硝子器の中にある時計を見つめた
午後2時には、まだすこしある
「出ましょう」と女性は言い、立ち上がって湯船のそとに足をつけ、湯船の端に腰をおろした

髪の先が濡れて、肌に張り付いている。ふと…車を借りよう、と思った。この精緻きわまりない世界を好きになり始めている。その創造者は、非在というひとつの死の様態にあるとしても、それによって生み出されたこの世界はやはり「いのち」に満ちているのではないか
「拭いて」
と女性がいった





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テーマ:自作小説(ファンタジー) - ジャンル:小説・文学

  1. 2010/11/13(土) 04:36:25|
  2. ダークファンタジー
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