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あやしく意味不明のダークファンタジー&SF。 一応健全(?)

水のあやなみ Ⅱの40



崩壊する精霊たちが雨となって降るような、その都市の朝、その雨は水晶の球に似て、けれども靄めくこともなく大気は澄み、すこし冷えていた。人の姿のない通りの遠くまでも見通せるその雨の中を赤い傘をさし少女は歩いている。低く傘を広げていたから、少女の顔はその下半分しか見えなかった。その風景のかすかな違和をそこにいる記述者のひとりが感じたとすれば、瞬間がいつも先にいってしまうという遅れ、もしくは取り残されが、この世界にはない、ということだろう。この世界はいつも記述者の認識の遅れを待っていてくれるかのようだった。そのような世界のなかを赤い傘の少女はあるいてゆく。放心をうかがわせるような…あるいは憤怒とともに。

その表情の硬質は、どこか人形めいてもいて、けれども生々しさがそこに感じられるのは、いくつもの表情が重なるように翳りのようなものとなって見いだされるからでもあるだろう。あるいは予兆としての認識を、その少女が持っている、ということかもしれなかった。予言者のように。すべては未成のまま可能性として示されるのみで、その不安のなかに吊られているような

雨は続いていたが、空は明るく、雲は薄くなっていた。路樹の緑は濃く、都市には珍しい樅だった。舗道には灰色の石が敷き詰められている。かすかに緑を帯び、摩耗が進んでいた。雨はその軽石のような表面に吸われて、少女の足音も密かなものにしていた。バスが一台過ぎてゆく。灰色の影のような人たちを乗せて。歩く人たちも皆、傘をさしつつうつむいて歩いてゆく。淡く隈のような疲労を、その青ざめた顔の色にのせて。あるいは、どのひともみな、何かを求め、それがかなわぬままになっているのかもしれなかった。苦痛と不安のなかに置かれて、そこからぬけだすこともかなわずに。もし、煉獄という場所があるとすればそれは、このような場所でもあっただろう。そのとき一瞬、少女の表情がやわらかくほころび、少女は微笑んでいた。その視線のさきには、舗道のガードレールにとまる1羽の鴉が、そのつややかな黒のすがたを丸くするようにして、なにかを凝視しているのだった。
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  1. 2010/11/14(日) 09:43:46|
  2. ダークファンタジー
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